談話室6月

「シリーズ・患者さんに聞いた言葉①『おばあさん』」

皆様はじめまして。談話室3人目の執筆者「F」です。どうぞよろしくお願いいたします。私は患者さんから聞いた言葉をお伝えしたいと思います。

91歳の女性。「この前ね、いつものように押し車を押して散歩に行ったの。疲れたので腰を掛けていたらね、通りがかった高校生が『おばあさん、大丈夫ですか?』って言うんだよね。周りを見回しても誰もいない。『おばあさん』って私のことかってびっくりしたよ。私ってハタから見たらおばあさんなんだね。きっと。」腰が曲がって、歩くのもおぼつかなくて。誰が見たっておばあさん風。「私ね、おばあさんって呼ばれたことがないの。いつも周りの人は『サーちゃ』って名前で呼ぶんだよね。私っておばあさんって言われる年なんだって、初めて気が付いたのよ。」私はその言葉に驚いた。その方は、生涯独身で確かにおばあさんという立場ではない。商売をしていたので、自分をおばあさんだと認識することもなかったのだろう。最近、「退職しました」という丁寧な手紙をいただいた。そこには長きにわたる商売へのお礼がしっかり書かれていた。ひとり一人に生きてきた人生があり、決して「おばあさん」と総称されてしまうような人は誰もいないんだ。そう気づかされた言葉だった。 〔F〕

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